蓼科生活 Vol.15 広がる、繋がる、蓼科生活。
蓼科生活一覧 

四季の彩りが美しい広葉落葉樹林に包まれた平林山荘。
石積みのバーベキュー炉を庭に設け、家族や仲間とガーデンパーティーを楽しんでいる

明るく、楽しく、前向きな人の周りに自然と人が集まるように
豊かで楽しいライフスタイルは憧れとなり、広がっていくもの。
『蓼科高原チェルトの森』で10年近く森の暮らしを楽しんでいる平林壯郎さん。
山荘に招いたゲストが続々と蓼科ファンになっていくその魅力に触れてみた。

森の中に浮かんでいるような感覚になるリビングルーム。
春の芽吹き、夏の深緑、秋の紅葉、冬の銀世界…。四季折々の風景を部屋に居ながら味わえる

森を眺める山荘

 森の暮らしの魅力は、そこで過ごしてこそ、実感できるのかもしれない。平林さんの山荘を訪ね、リビングの窓一面に広がる溢れんばかりの緑を前に、そう思った。青々と茂る森がどこまでも広がり、隣家や電柱などがまったく視界に入らない。聴こえてくるのは、小鳥の囀りと風に揺れる樹々の葉音。窓からそよよいでくる緑の香りに包まれ、いつまでもここに佇んでいたくなった。

舞台の花道のように庭へと続くウッドデッキ。間近にリスや小鳥たちがやってくる

「自分がいいと思った場所は他の人も気に入るはず。
ここだと思った土地は、まずおさえるべき」と語る
平林壯郎(たけお)さん

ヤマツツジなどの花木が敷地内に自生しており、
季節の彩りを楽しむことができる

 平林さんが森の暮らしに憧れを抱いたのは、大学時代。八ヶ岳を縦走した帰り道、美濃戸口バス停に向かう途中でふと振り返ると、阿弥陀岳から横岳にかけて連なる険しい岩峰が西陽を受けて輝いていた。その山塊の神々しい風景に言葉を失ったという。
 平林さんはその場所を「魂が目覚めた場所」として心に深く刻んだ。
 その後、仕事で多忙を極める日々の中で、いつの日か山の懐に抱かれて暮らしたいと、強く思い続けてきたという。

「蓼科高原チェルトの森・柳川街区」より望む八ヶ岳連峰。険しい岩峰や山麓を覆う原生林、厳かで力強い大自然が広がっている

 そして50 代半ばを過ぎ、リタイア後の人生を見据え、都心の自宅から通いやすい森の別荘地をいくつか見学。箱根、那須、軽井沢、八ヶ岳山麓などの候補地から、湿気が少ない清涼な蓼科高原に絞り込み、見渡す限り広大な森が広がる『チェルトの森』の土地に出会い、一目惚れ。
 〝森を眺める山荘〟をコンセプトに、森の景観をフルに活かしたシンプルだけど気持ちのいい山荘を自らプランニング。リビングダイニングはもちろん、二階居室、バスルームにいたるまで、窓の向こうに緑が広がる山荘が完成した。

2階居室の窓に浮かびあがる森はまるで絵画。梅雨時のしたたるような緑も風情がある

全開にできる窓をコーナーに設けたバスルーム。外から視線を受けない2階にあり、半露天的な開放感が味わえる

憧れが憧れを呼ぶ

 厳冬期でも森の暮らしを楽しめるよう、山荘には外気温がマイナス10℃を下回っても快適に過ごせる断熱性と凍結対策を施した。
 山荘完成後、約八年、月に二度の頻度で蓼科を訪れているという。森を眺めながら自身がリフレッシュするのはもちろん、家族や友人、職場の同僚を招くことも多く、平林さんの山荘で森の暮らしに触れ、蓼科の自然に魅了される人が続出。職場の同僚がすぐ近くの土地を購入したのをはじめ、平林さんの山荘を頻繁に訪れていた妹夫妻も、昨年、『チェルトの森』の土地を購入し、現在、山荘を建築中だ。

開放感に満ちた2階吹き抜けの渡り廊下。視界を妨げないよう、手摺りにシンプルな鉄のフラットバーを使用している

平林山荘に向かう道路沿いにある小段の池(別荘地敷地外)。
エメラルドグリーンの水を湛える神秘的な池は、平林さんお気に入りの散歩コースになっている

 特に森の暮らしの素晴らしさを熱く語ったわけでもなく、土地の購入を薦めたわけでもない。ウッドデッキで朝食やお茶を楽しんだり、庭でバーベキューをしたり、温泉めぐりをしたり、共に森の暮らしを楽しんできただけだという。
 果てしなく広がる森に抱かれていると、日常の雑多なあれこれがどこかへ吹き飛び、心の底からリラックスできるもの。森の暮らしは、住宅密集地で暮らす都会人にとって、誰もが羨む憧れのライフスタイルなのだ。

ウッドデッキで味わうランチは、森を抜けるそよ風や
木洩れ陽も最高のご馳走

錦秋に染まる平林山荘。
森は、訪れる度に違う表情を見せてくれる

白い森が広がる冬のリビング。
動物たちが息を潜めた森は、絶対的な静寂の世界

広がる森の暮らし

 蓼科に通い続けている間に、信州の食材を活かしたレストランや家具工房、植木屋さんなど、馴染の店を持ち、地元との交流を深めてきた。昨年、親しくなった農家から家庭菜園の話を聞き、畑を借りてレタス、インゲン、ブロッコリー、トマトなどの栽培を始めた。農家の人が土づくりやマルチシートの設置もやってくれるので、足繁く畑に通わなくても野菜が育つという。

昨シーズン、平林さんの畑で収穫されたジャガイモ、ブロッコリー、インゲン、ミニトマト。自分で作った野菜は、格別の美味しさ

木こりの第一歩として斧を使って薪割りを行い、すでに、
ひと冬以上越せそうな量の薪が用意されている

 また庭づくりも着々と進んでいる。もともと自生していたクリ、ナラ、モミジ、ミヤマザクラ、ウワミズザクラなどの広葉落葉樹の成長を促すため、日照の妨げになっていたアカマツの巨木20数本を伐採。大自然と共に生きる〝木こり〟に憧れたこともあり、庭でアカマツを伐採していた職人の仕事ぶりを見て、思わず弟子入りしたくなったそうだ。

敷地内のアカマツの巨木を伐採し、高木と低木のバランスを整えた。
裏庭では、玉切りされたアカマツが薪になる日を待っている

 60代半ばになり、自分の時間が増えてきたこともあって、平林さんは今夏、木こりの夢を叶えようと、長野県の『伐木造材講習』を受講する。『NPO法人 八ヶ岳森林文化の会』にも加入し、間伐材有効活用のための活動や薪割体験などの森づくり部会、八ヶ岳山麓をフィールドとした自然観察会などに参加し森林への見識を広げている。
 蓼科で暮らす時間が徐々に増え、地域との結びつきを深めている平林さん。森づくりにかける熱意とともに、新しい蓼科生活を広げていきそうだ。

本格的な木こりは体力的に難しいが、自分の出来る範囲で森林保全活動に携わりたいと語る平林さん。
森は、これまでやりたかったことを実現する夢のフィールドだ